この写真の風景、すぐにどこだか分かりますか?
なんだか新鮮だったので思わず撮ってしまいました。
何処かというと、ウフィツィ美術館の出口付近をヴェッキオ宮殿の窓から見たところです。
右端に茶色い鉄の囲いがあるのがウフィツィ美術館の出口スロープ。
左側のクリーム色の建物はCamera di Commercio商工会議所。
その続きのこちら側にちょっとだけLoggia del Granoロッジャ・デル・グラーノが見えます。
いかにも「ウフィツィ美術館だよ!」っていう写真じゃないと、住んでる人以外はどこだか分からないかもしれません。
これは、そのいかにも!な写真。↓

さっきの写真を撮っていた場所はヴェッキオ宮殿の三階、Sala degli Elementi エレメントの間、
の、修復用足場の上です!
現在エレメントの間の壁画部分(最後には天井が部分も)が修復中で、壁画のプリントがしてある幕の張った足場があり、普段は中を見ることができないのですが、月に一回だけ公開しています。
5月あたりに公開が始まったのに、すっかり忘れてて9月になってやっと行きました。
ヴェッキオ宮殿壁画の修復中、その過程
という事は、普段は絶対不可能な位置から作品を見れるんですよ、これ!ちょっと、すごいよねっ、わーー!!!と、内心大興奮しているのは見せずに、お行儀よく見学をしてきました。

写真の明るさを調節すべきだった、と今気づきましたが、このまま行きます。すみません。
ちょっと暗く写っているのは、展示用の光源ではなく修復作業用のライトが付いているからなんですけど、びっくりするほど、色がクリアに輝いているんです。
修復前のこの壁画も綺麗だったんですけれども、ここまで色が鮮やかに取り戻されるってすごいです。
表面と壁内部に入った汚れを落とす為に、人体には無害の薬剤を半センチほど塗るんだそうで、しばらく放置していると、表面の固まってしまっていた膜と内部に入り込んだ汚れも表面に吸い出されてきて、それをスポンジなどでやさしく取り除く作業、と修復師さんが説明をしていました。
修復作業によっては人の体に悪い溶剤なども沢山使わなければいけない場合もあるそうですが、この作業の場合は若干臭ってしまうものの、害はないので一般公開ができるそうです。(私は鼻づまりで分かりませんでした。)
それでもやっぱり作業の進む週末にかけては臭いがこもるらしいので、休み明けの月曜日にだけ、普段閉めている窓も全開にしての公開です。

修復師さんが直接説明をしてくれます。
ジョルナーテ:フレスコ画の制作方法

こちら、修復師さんが左側にすこし写っている写真は、ジョルナーテというフレスコの手法が分かるところを見せてくれているところです。
フレスコ画は壁に漆喰を塗り、それが乾燥してしまう前にピグメントと水で描いてゆきます。ピグメントは漆喰に入り込んで化学変化を起こし、壁と一体となり、経年劣化の起きにくい丈夫な絵画として残ります。
しかし漆喰が乾燥する前に絵を完成させないといけないという制限があります。
壁の全面を漆喰で覆って、少しずつ時間をかけて描いていくという訳にはゆかないので、その日のうち(夏場は特に乾燥が早いので数時間内)に完成予定の壁にだけ漆喰を塗り、順次描いてゆきます。
それが、1日(ウナ ジョルナータ)ごとなので、ジョルナーテ(複数形)と呼ばれるテクニックとなります。
その1日1日の漆喰の跡のキワが、近くからなら見えます。上の写真ではとくに青色が濃いところと薄いところの違いが大きい画面右側が分かりやすいです。
壁面への下書き転写方法

それから、下絵の壁面への転写方法。
色々時代によってもテクニックは違うのですが、ここで使われた方法は、まだ乾燥していない漆喰面の上に完成作と実物大の下絵を上において、その下絵の線を棒でなぞるというもの。
そうすると、軽く凹んだ跡が漆喰面に残るので、それを目安に色を乗っけていきます。
微妙で写真では特に分かりにくいのですが、上の写真では大腿二頭筋の膝の上あたりに、その筋肉の輪郭線が引いてあります。
過去の修復跡

修復師さんの手(写真右上)があるあたり、周りに比べて色が濃い部分があります。
これは、今よりも前の時代に修復の手が入った部分です。
今回壁面を洗浄したら、オリジナルの壁面は元々の鮮やかな色が戻ったのですが、この部分は暗い色のままです。
暗い色の絵の具で描かれているんです。
過去に修復がされた時代にはオリジナルの壁画は汚れを落としていない状態だったので、濃いめの色がオリジナルの色として認識されたのであろう、その濃い暗い目の色に合わせてされた修復なのだろう、との事。
これも時代の証言なので保存されます。
この部屋はわずかな壁のヒビや隙間から、水が入り込んでくるという問題がありました。おそらくこれも、その水の被害で色のついた漆喰部分が落ちてしまった、と考えられています。
現在は作品に筆を新たに加えるという修復方法は避けられますが、ガンガン加筆していた時代もあるんです。(1800年代はそれをやりまくった時代ですが、ここはどの時代だったのか聞くのを忘れました。)
この素晴らしい修復、やっぱり莫大なお金がかかっています。それを援助したのが、したのが、Fondazione Giulio e Fiovanna Sacchettiです。
今回の修復についてのページもありました。
Al via il progetto di restauro della Sala degli Elementi di Palazzo Vecchio a Firenze
ページを読んでから、ふと気づいたのが、この部屋についての説明を私はここまで一切していなかったという事。いつも後手後手ですね。
ヴェッキオ宮殿: エレメントの間Sala degli Elementi について
上記修復についてのページを読んでから、ふと気づいたのが、この部屋についての説明を私はここまで一切していなかったという事。いつも後手後手ですみません。
“エレメントの間”と訳してしまいましたが、正確にはSala degli Elementi で複数形なのでカタカナ的にはエレメンツです。
4代元素、空気、火、水、土、をこの部屋全体に表されています。
天井が空気。ウラヌスがサトゥルヌスによって去勢される場面が描かれています。ウラヌスの男根から生まれるのがヴィーナス。修復中の壁、水色の綺麗な東側の壁です。ちょこっと見えたのは、火を表す北壁、西壁が土です。
この部屋はその下のレオ10世の間の上にあり、それに対応しています。下の階は地上を支配するものたち、上のこの階は天を支配する者たちです。ざっくりとこんな感じです。
描いたのは、ヴァザーリとマルコ・ダ・ファエンツァ、イル・ドチェーノ。
3人目のイル・ドチェーノは特にヴァザーリの仲のいいお友達でもあり、仕事に熱心すぎるところもある人で、1556年に亡くなってしまった時にはヴァザーリは相当肩を落としたそうです。
この修復が終われば、メンテナンスをしつつ100年間は大丈夫だそうです。
今は美術館として使われていて保存状況は良いのですが、その昔はここ、暖炉があったし、来客は多かったし、もうそれそれは、なコンディションだったので、これからは100年以上は大丈夫よ、とも話していました。
早く足場の取れた部屋全体を見たいところですが、もう少し時間がかかります。2018年の春?夏?(忘れてしまった!)までかかるそうです。
予算内で終わらせる為にも、のんびりペースのイタリアにあって、ここはしっかり予定通り終了することでしょう。もちろん、修復師さんたちの腕があってこそです!