ストロッツィ宮殿 オラファー・エリアソン展 NEL TUO TEMPO 開催中
フィレンツェのストロッツィ宮殿にて2022年9月22日〜2023年1月22日まで、
オラファー・エリアソン Nel tuo tempo 展が開催中です。
ブックレットなどが英語と二か国語表記にも関わらず、展覧会タイトルは英語版でも『NEL TUO TEMPO』イタリア語のままです。
その理由は、イタリア語の意味として”tempo”に「時」と「天気」と両方の意味があるので、敢えて英訳せずにしたとのことです。
少々無理に日本語訳をすると、「あなたの時の中」もしくは「あなたの天気の中」になり得るかと思います。
2015年に、普段作品が展示されている部屋が空の状態でオラファー・エリアソン自身がストロッツィ宮殿に下見に訪れ、窓から入る光、反射する光などを観察しています。
オラファー・エリアソンの展示においては、鑑賞者自体が作品要素の50%になります。
なので、ストロッツィ宮殿と来場する鑑賞者、両方を必要とするサイトスペシフィック作品となっています。
鑑賞者が作り出す影、動く事によって変化する光、視点が変わる事によって生み出される視覚効果など、
実際の作品を鑑賞する事によって、頭で考えるのではなく体験できる展示となっています。
展覧会主催側の説明に沿って、いくつかの展示作品をご紹介します。
オラファー・エリアソン展示作品
Under the weather, 2022
一つ目は宮殿中庭の中央に位置する作品。
一見複雑な仕組みの映像作品のようですが、実は長い棒を並べた層を二重にしているだけというシンプルなものです。
シンプルであるものの、棒と棒の距離など試行を重ねて完成されています。
観客が自分で動く事で作品が変化して見え、その見え方は観客それぞれ違った見え方になります。
Just before now, 2022
3つ目の部屋の作品。
光はルネサンスの空気を中に内包するガラスを通し、反射し、鑑賞者の影を作り出し、作品が完成されます。
アイスランド系デンマーク人であるエリアソン、伝統的な西洋美術史を持つイタリアにおいて、光が何を意味するのか。
それは、日本から見た時には別である事を意識するのも大切な視点です。
“光”からは教会主祭壇のステンドグラス、”影”からは聖書で語られる奇跡、”透明なガラス”はシンボルとしての聖母マリアの純粋、などが連想されます。
作品を映し出すスクリーンの手前に左右に二つの光源があり、
スクリーンの裏側にある鏡で塞がれた窓にそれぞれの光源から光が当たります。
映し出された作品は、まるでポリプティクのよう形となって出現します。
この作品の光は次の作品のある部屋にも明るさをもたらします。
How do we live together? 2019
次の部屋の作品です。
特別に仕切られて小さくしつらえた部屋で、鏡面の板が頭上を覆っています。
部屋に入った人は自身が上部に映っているのを見て、宙吊りにされてしまったような感覚になります。
鏡面という要素は、フィリッポ・ブルネッレスキが遠近法の研究に使った鏡を思い起こさせます。
部屋の中で様々な角度から鑑賞する事によってのみ発見できる面白い画角もあります。
Solar compression 2016
小さな部屋の中央に吊るされた、モーターでゆっくり回る作品。
緩く凸面になった鏡が2枚合わされ、その狭間はオレンジ色に発光しています。
太陽の動き、時間、鑑賞者の見つめる時間、映り込む他の鑑賞者、等々の連想…。
Your timekeeping window 2022
24のガラスの球が壁に嵌められている作品。
オラファー・エリアソンが今展覧会の為に制作しました。
ガリレオ・ガリレイの残した月の満ち欠けの図、時を測る月齢を思い起こさせる配置と形。
作品に近づくと気付くのは、このガラス玉は壁によって遮られている向こう側の窓を映し出しているという事。
非常にクリアに映し出された窓は、上下左右が逆さまになって見えます。
すぐ近くに存在しているのに、ガラス玉を通してのみ反転し歪んだ様々な角度で壁の向うの窓が見えます。
鑑賞者の動きに合わせて24通りの見え方は変わり、不思議な感覚を起こさせます。
Beauty 1993
2020年、東京都現代美術館にて開催された「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」でも展示された作品です。
遮光カーテンをくぐって入る暗い空間に光が浮かび上がります。
観る場所、角度、人の動き、時間、鑑賞者それぞれの形と色を観ることになります。
上部から霧状に噴射され、床から排出された水は、濾過され、再び霧として戻ってきます。
塩素の匂いはせずに自然な水の匂いです。
ちなみに、パンデミック期間に日本での展示は実現しましたが、予定されていた他の展覧会が中止された事により、エリアソンはストロッツィ宮殿の展示の為により集中して制作したとのことです。
Firefly double-polyhedron sphere experiment 2020
展覧会のパンフレット表紙にも使われている、多面体を二重に重ねた作品。
肉眼で観る色と、写真に撮った色に違いがあるのは面白い現象です。
ゆっくりと宙で回転をして、壁に様々な色を投影します。
レオナルド・ダ・ヴィンチの研究や、ルーカ・パチョーリの肖像画に一緒に描かれた多面体など、
オラファー・エリアソン自身も様々な研究制作をしています。
Room for one colour 1997
上部の階、最後の部屋となるこの作品は、黄色の光で満たされています。
(実際の色は写真よりもっと黄色です。)
黄色には、豊穣、狂気、ユダヤ人に使用を強制されたダヴィデの星、注意を引く色、と様々な意味があります。
自然光など様々な色彩を含む光の中で進化した私たち人間は、蛍光灯や白熱灯、ハロゲン灯でもその中で色のバランスを自動的に調節できる目を持っています。
ところが、オラファー・エリアソンの作品に使われている単色の光の中では、色の調節機能が無効化されてしまいます。
黄の単色の光が他の色を無効にし、様々な色は黒〜グレーのグラデーションとして目に入ってきます。
それは、鑑賞者を見てみることで明らかな変化として体験できます。
City plan 2018
この作品よりStrozzina ストロッツィーナと呼ばれる地下の展示室になります。
7枚の鏡と新聞7紙が、廊下の壁に向かい合わせの形で展示されています。
新聞は毎日当日のものが吊られます。
鏡の上には、ここでも再び多面体に使われる幾何学模様が繰り返されます。
今日、時、新聞の中の日常。
Your view matter 2022
こちらの作品はゴーグル被り、手にコントローラーを持って観客自らが体験するヴァーチャルリアルティ作品ですので画像なしです。
6つのヴァーチャルの部屋の中を進んでいきます。自分で少し歩いたり、キョロキョロ辺りを見回してみると面白い、と係の方にアドバイスをいただきスタート。
最初の方はテーマごとの不思議な模様のある部屋を進み、次の部屋、、、と思っても出入り口などは見つからなかったので、適当に壁にそのまま直進したら突き抜け可能でした。
最後の部屋が一番色彩豊かな部屋で、空間に変な浮遊物が浮いています。
浮遊物を追いかけてみたら多面体をいくつか構成した透明な何かでした。
浮遊する多面体も一つだけではなく、他に小さなものがいくつかあるのをひたすら追いかけて、割と長い時間ぐるぐるヴァーチャル空間を巡っていたら、ようやく「EXIT」が無事現れました。
終了したら手を上げて、係の人にゴーグルを外してもらいます。
こういったヴァーチャル体験が苦手という方は、途中離脱可能です。
隣の部屋にはヴァーチャル空間内の映像が投影されているので、映像のみの鑑賞もできます。
ストロッツィ宮殿 オラファー・エリアソン展 インフォメーション
・ストロッツィ宮殿オフィシャルサイト → OLAFUR ELIASSON NEL TUO TEMPO
・ストロッツィ宮殿インフォメーション → ストロッツィ宮殿 Palazzo Strozzi